「おかあさん…おかあさん?どうしたの、おかあさん?」
―――母さんは、もう
「ねえ、そろそろご飯のじかんだよ」
―――起きれないんだ、起きないんだ
「おかあさん、ねえ、へんじしてよ」
―――母さん……
「おかあさん、私なにかわるいことした?おこってるの?ごめんなさい、おかあさん…」
―――俺が、守っていくから…
…日差しが眩しい、もう昼時は過ぎてるだろうか。
この夢を見るのは久しぶりだ、守るべきものの出来た…あの日の。
「起きないとな、流石に今日リズムを変えるわけには…いかない」
今日は婚儀、己が添い遂げたあの人との誓いの日。
眠い目を擦り起き上がる、一日の支度を始めないと…。
商人の立ち並ぶプロンテラの街中を見て回る、
今日くらいは商売を忘れてゆっくりしてもいいんだろうが習慣が体から抜けないせいかここに居る方が落ち着く。
人々には日常でも俺にとっては今日は目に映る品の一つ一つが特別に見える。
自分でも気に入っている頭装備、一緒に被ったら似合うかな。
実用性の高いカード、これを送れば喜ぶか。
いっそここで触手でも…って、それは何か違う。
自身に必要な婚礼用具は揃えた今考えるのは相手への贈り物、
しかしこれといったものも思い当たらない。
…暫く考え込んだ末に結局自分の身一つでその時を迎えようと決めた。
……今朝方天使の鐘を聞いた、
今日はどれだけ皆に危ない目に合わされるか分からない…
だから狩り場に立つつもりは無かった。
「のになんで俺はここに居るんだ。」
狩りに出るのは身についた習慣だろう、
しかし久しぶりに訪れるこの地に懐かしさを覚える。
「…お礼参りってことで、いいか」
襲い掛かる兄貴と姉貴を愛用の鈍器で次々と倒していく、
自身の成長を感じつつ村を走りぬけ西の海辺へとたどり着く。
―――そこに居たのは
「やっぱり凄いね、片手剣より早いのって気持ちいいv」
「ん、お陰で俺も安心して戦えるよ。」
楽しそうに鈍器を振り回しつつ微笑みかけられる、
これが西兄貴じゃなければもう少し風情があるかも知れないがそれはそれ。
「…しかし周りが賑やかになってきた、もしかしたら危ないかもな?」
「だねー、もしボスに出会ったりしたらびっくりだけど(笑)」
談笑をしながら互いに坂を下りた、
目視したその先に廃兄貴の群れを見つけ喜ぶも微かな違和感を覚える。
残酷なほどの力を持つ敵
抗えない悲しさ
行動することさえ出来なかった幼さ
―――守りたい
瞬間俺は雄叫びをあげ走り出した、
走り出す俺に向けた叫びが微かに耳の奥に届いた気がした。
懐かしい人に出会った、
出会うこと自体は稀ではないがここで見ることはないと思っていた人。
「…昼寝か?」
「!」
飛び起きるような反応をする、いきなり後ろから声をかけるのはまずかっただろうか。
「ど…どうしてここに?」
「狩りの途中でな。そっちこそ、こんな所で見かけるとは珍しい」
「あ…うん、まあね、あは、は…」
…不意にその場所があの時の地であった事を思い出す。
「ええと…もう96、だっけ」
「ああ、今朝上がった」
時が経った今も忘れない、大切な思い出。
「早いねー、もう随分置いていかれちゃったよ」
「そうだな…組めなくなってしまったが」
守りたかった、
強くなるがゆえに離れた、
そうして歩んできた俺は今日添い遂げた人と結ばれる。
「最後に組んだのはここだったな…懐かしい」
「うん…良い思い出…だね…」
懐かしい。 強くあの瞬間を思う。
「……今日、式…だっけ。」
「うん? ああ、今夜だ。」
伝えていなかったはず。
―――伝えなかったはず
「そっかー、そっちも先を越されたねー」
曖昧な微笑を返す、けれど相手の顔はこちらを向いていない。
「おめでと、良かったね。大事にしないとダメよ? それでなくてもキミは…」
…俺は…
「…キミは、ガサツでちょっとニブいから……」
…そうだな、確かにそうだった。
「ああ、だから…ここに居るんだろうな」
俯いたまま言葉を返されるわけでもない、だがその場を去ることが出来ない。
「…………ねえ……」
…去らなければいけない …去ってはいけない。
「……………あのさ……」
俺は答えなければいけない…
「……私…」
―――大切だから
「…どうした?」
「…私、さ…」
「…私、大丈夫。今貴方の前に出ても…たぶん、笑えるから。」
黙って頷いた、ずっと強くなっていた。
「おめでとう、お幸せにね」
その表情に俺は微笑む。
「…伝えたいことが多すぎてまとまらないから、一言だけ。」
「……ありがとう」
それだけ伝え、踵を返した。
…頬を冷たい感触が伝う。
だからこそ俺は笑った。
そして俺は真っ直ぐに愛しい人の元へ駆け出した。
―――ありがとう