「………クソ。」
自分の声が聞こえるように、私は呻いた。
夜空を見上げると、頭上に居たはずの太った月は
疲れたように傾いでいた。
どうやら2時間ばかり"眠"っていたらしい。
重い右半身を引き摺って身体を起こすと、
すぐ傍に何体分かの肉片が転がっている事に気付いた。
服を着ている――着ていたようだし、人間かな。 軽くそう思った。
肥大し脈打つ右手は血にべっとりと濡れている。
いつもの事だ、どうせ野盗か何かだろう…
今日もそう思う事にした。
「バカらしい… もう慣れたわ」
最近、とみに意識を奪われる事が多くなった。
くしゃみの拍子に記憶が飛ぶなんて、自分でも笑ってしまう。
もう長くないのだろう…それは薄々判る。 半分は自分の身体だ。
今私を支えているのはあの
7年経っても色褪せず、脳裏に焼きついて離れず、毎夜蘇る光景。
最愛の人は目の前で浚われた。
私は焼かれ、裂かれ、砕かれた。
右半身は塵になり、そして最後に死の砂漠に捨てられた。
――死にたくない。
あの娘を奪った
必ず見つけ出して、根絶やしにしてでも奪い返す。
私は、私の作ったこの愚鈍な生き物に我が身を捧げた。
貪欲に私の全てを食らおうとしていた。
従順なふりをして、少しずつ私の身体と魂を侵していく。
かつて右上半身だけだった
意思に反して右腕が振るわれる事も少なくない。 油断をすれば意識すら乗っ取られる。
「勝手にぶくぶく太っちゃって…」
重くてしょうがない、とこぼして私は立ち上がる。
それまでは
ああ、家に残してきた二人の娘――名前は何だったっけ――は元気かしら?