「……そう…結婚、するんだ?」


―――あの日の声が、まだ聞こえてくる…

「良かったね。おめでとう、幸せに……」


―――砕けて散った、もう取り戻せない過去(おもいで)の…

「…………あの、さ……」


―――やめて、その先を…

「………私と…」


―――その先を言わないで…

今朝の寝覚めもサイアク。
最近は、2日に1回はあの夢で目が覚める。

「…吹っ切ったと思うんだけどなあ」

声に出してみる。うん、これなら平気、いつも通り。
商売人たるもの、常に本音は隠さなきゃ。

もう、子供じゃないんだから。

贈り物を探さなきゃ。
せっかくの門出なんだし、何が良いかな?
何をあげたらあの人、喜ぶかな…

定番の青箱紫箱。 ありきたりかなあ…

新しい鈍器? もうあらかた揃えてるよね。

赤いろうそく。 ちょっとストレートすぎ。

私の名前入り白ポ…はさすがにまずいよね、やっぱり。


美味しいって言ってくれたんだけどな…

ぶらぶらとプロンテラを歩いて見つけた闇の契約書。
うん、まあこれなら…洒落っ気も効いてるかな。プレゼント用に包んで…


「自分で渡さないんですか?」
「うん、今日は出ない…行けれないし。」
「本当に良いんですか? だってあの人の事…」
「良いの。」
「でも…」
「良いったら良いの! とにかく渡しておいて!」


もう煩いんだからあの年増、放っといてよ…!
人の気も知らないで。私だって自分で渡せるなら…渡せたなら、きっと…

…何処だろう、ここ?
風に乗って微かに届く潮の匂い…

「…西兄貴かあ。」

なんでこんな所まで来ちゃったんだろ…疲れた。
少し休んでいこう。西風が気持ち良い。

「……あーあ、格好悪ぅ…」

この辺りだったかな、あの時…

「このまま居なくなれたら良いのに…」

そうしたら、もうこんな事考えなくて良いのに…
目を瞑じて…


…………

「…昼寝か?」
「!」

恥ずかしいくらいに慌てて飛び起きた。

「ど…どうしてここに?」
「狩りの途中でな。そっちこそ、こんな所で見かけるとは珍しい」
「あ…うん、まあね、あは、は…」

どうしよう。顔には出てないかな? 声は?

「ええと…もう96、だっけ」
「ああ、今朝上がった」

落ち着いて、いつも通りに。

「早いねー、もう随分置いていかれちゃったよ」
「そうだな…組めなくなってしまったが」

何もなかったみたいに…

「最後に組んだのはここだったな…懐かしい」
「うん…良い思い出…だね…」

何も…

「……今日、式…だっけ。」
「うん? ああ、今夜だ。」

…胸が苦しいよ…

「そっかー、そっちも先を越されたねー」

顔を、見てられない…

「おめでと、良かったね。大事にしないとダメよ? それでなくてもキミは…」

…キミは…

「…キミは、ガサツでちょっとニブいから……」


そんな事が言いたいんじゃない…

「…………………」


何か言ってるのかな…? 聞こえないよ…

「…………ねえ……」


ダメ…

「……………あのさ……」


もう、二度としないって…

「……私…」


言わないって決めたから…

「…どうした?」

「…私、さ…」

「…私、大丈夫。今貴方の前に出ても…たぶん、笑えるから。」

もう、あの日みたいな…子供じゃないから


「おめでとう、お幸せにね」

もう…笑って、送り出せるよね


「…伝えたいことが多すぎてまとまらないから、一言だけ。」
「……ありがとう」

そのまま振り返らず、あの人は去ってくれた。
良かった…こんな顔、見せられないもんね。
子供みたいな、格好悪い……


おめでとう、この気持ちは本当だから。
私は、大人になれたかな?