……そう…結婚、するんだ?


―――あの日の声が、まだ聞こえてくる…

良かったね。おめでとう、幸せに……


―――砕けて散った、もう取り戻せない過去(おもいで)の…

…………あの、さ……


―――やめて、その先を…

………私と…


―――その先を言わないで…

今朝の寝覚めもサイアク。
最近は、2日に1回はあの夢で目が覚める。

…吹っ切ったと思うんだけどなあ

声に出してみる。うん、これなら平気、いつも通り。
商売人たるもの、常に本音は隠さなきゃ。

もう、子供じゃないんだから。

贈り物を探さなきゃ。
せっかくの門出なんだし、何が良いかな?
何をあげたらあの人、喜ぶかな…

定番の青箱紫箱。 ありきたりかなあ…

新しい鈍器? もうあらかた揃えてるよね。

赤いろうそく。 ちょっとストレートすぎ。

私の名前入り白ポ…はさすがにまずいよね、やっぱり。


美味しいって言ってくれたんだけどな…

ぶらぶらとプロンテラを歩いて見つけた闇の契約書。
うん、まあこれなら…洒落っ気も効いてるかな。プレゼント用に包んで…


自分で渡さないんですか?
うん、今日は出ない…行けれないし。
本当に良いんですか? だってあの人の事…
良いの。
でも…
良いったら良いの! とにかく渡しておいて!


もう煩いんだからあの年増、放っといてよ…!
人の気も知らないで。私だって自分で渡せるなら…渡せたなら、きっと…

…何処だろう、ここ?
風に乗って微かに届く潮の匂い…

…西兄貴かあ。

なんでこんな所まで来ちゃったんだろ…疲れた。
少し休んでいこう。西風が気持ち良い。

……あーあ、格好悪ぅ…

この辺りだったかな、あの時…

このまま居なくなれたら良いのに…

そうしたら、もうこんな事考えなくて良いのに…
目を瞑じて…


…………

…昼寝か?


恥ずかしいくらいに慌てて飛び起きた。

ど…どうしてここに?
狩りの途中でな。そっちこそ、こんな所で見かけるとは珍しい
あ…うん、まあね、あは、は…

どうしよう。顔には出てないかな? 声は?

ええと…もう96、だっけ
ああ、今朝上がった

落ち着いて、いつも通りに。

早いねー、もう随分置いていかれちゃったよ
そうだな…組めなくなってしまったが

何もなかったみたいに…

最後に組んだのはここだったな…懐かしい
うん…良い思い出…だね…

何も…

……今日、式…だっけ。
うん? ああ、今夜だ。

…胸が苦しいよ…

そっかー、そっちも先を越されたねー

顔を、見てられない…

おめでと、良かったね。大事にしないとダメよ? それでなくてもキミは…

…キミは…

…キミは、ガサツでちょっとニブいから……


そんな事が言いたいんじゃない…

…………………


何か言ってるのかな…? 聞こえないよ…

…………ねえ……


ダメ…

……………あのさ……


もう、二度としないって…

……私…


言わないって決めたから…

…どうした?

…私、さ…

…私、大丈夫。今貴方の前に出ても…たぶん、笑えるから。

もう、あの日みたいな…子供じゃないから


おめでとう、お幸せにね

もう…笑って、送り出せるよね


…伝えたいことが多すぎてまとまらないから、一言だけ。
……ありがとう

そのまま振り返らず、あの人は去ってくれた。
良かった…こんな顔、見せられないもんね。
子供みたいな、格好悪い……


おめでとう、この気持ちは本当だから。
私は、大人になれたかな?