High-handed

ボーダー。

二足歩行型汎用兵器ブラストランナーを操るパイロットであり、組織としてニュードを奪い合う傭兵達。
ニュードに汚染された地上では、通常の人間が長時間活動することは不可能であり、
特に回収作業の要となるコア、およびプラント周辺では、ニュード汚染に対して耐性を示す特殊な人間のみが活動できた。
適応の代償に、非汚染地域では著しい身体能力の低下を示す彼らを、いつしか人々は
"汚染地域と非汚染地域の狭間でしか生きられない者達"…ボーダーと呼ぶようになっていた。

彼女…アウラ・エニッツァーも、そうした適応を示す人間のひとりであった。

膨張した資本主義経済が遍く世界を支配し、5%の人間が富の90%を占めるこの時代。
エルドー・エニッツァーは複合体企業(コングロマリット)ファンタズマ・グループの会長であり、
その息女たるアウラもまた、"富める側"の人間であった。

たったひとりの娘に注ぐ、エルドーの並々ならぬ期待によって、アウラは幼少の砌から様々な教育を受けた。
あらゆる分野に非凡な才能を顕すこの娘に、父は更なる期待を押し付けたが、
その事はまだ年端の行かぬアウラの精神に重く圧し掛かり…彼女の気質を、些か頑ななものにした。

ニュード感受性の全世帯検査(スクリーニング)でアウラが示した感受性はD+。
一般人より高いとはいえ、ボーダーに向いているとは到底言い難い程度の耐性しかないアウラが
周囲の反対を無視して傭兵学校を訪れたのも、そんな父親に対する反抗心の表れであり、
また単に自分の才能を試したい……もっと言えば、周囲に見せ付けたいという欲求からであった。

傭兵学校には、様々な人間がいた。

4〜50であろう男が資料を読んでいる。頬の大きな傷から、元々軍人か何かだったのだろう。
ニュード耐性を要求されるボーダーには、才能がなければ就く事は出来ない。ゆえに実入りも良い。
高額の報酬に釣られて、ボーダーとなった者も多い。

ガスマスクをつけた者も居る。男なのか女なのか判然としない。目には不気味な光が宿っている。
ニュード被曝者かもしれない。ニュード汚染に曝され、ニュード耐性が飛躍的に高まる人間も居る。
そういった人間は、往々にして非汚染地域では日常生活を送ることすら困難なほどの障害を受けることになる。

まだ10歳そこそこだろう少女もいた。ぬいぐるみのようなものを抱えて不満を漏らしている。
たかだか全長5m程度のブラストランナーのコクピットは、大人の男が入るギリギリのサイズしかない。
体格が小さいことは、それだけでも有利な点だ。 無論それは、アウラ自身にも言えることである。

どいつもこいつも、取るに足らない人間ばかり……そんな時、人波に揉まれるひとりの少年が眼に留まった。

「す、すみません……あっ、ご、ごめんなさいっ!」

年の頃は10になるかならないか、おどおどとしていて覇気のない態度は、場の雰囲気から浮いていて、逆に目立っていた。

「ああいうのも来るんですのね…」

その時は別段どうすることもなく、そのまま少年は人の波に飲まれていった。
淡い栗色の髪の毛が、やけに印象に残っていた。