ソテル計画。
21XX年、世界人口は増加の一途を辿り、もはや地球という惑星が許容できるレベルを超えていた。
エネルギー問題に行き詰った人類を救うべく、国際研究機関GRFは新資源探査計画を開始。
10年の時を費やし、太陽系全てを探し尽くした人類は、ついに求めていた救世主を見つけ出す。
ニュード。
そう名付けられたこの物質は、エネルギー資源として高い価値を持ちながら、自己増殖する性質をも備える、画期的な物質であった。
誰もが、エネルギー問題は終わったのだと信じた。人類の叡智の勝利に喝采が博された。
あの事故が起こるまでは……
衛星軌道上に浮かぶ巨大研究施設、エイオース。
人類が太陽の更なる恵みを享受せんと、この暗黒の海に浮かべた箱舟。
彼…ベネディクト・ローゲンマイヤーは、この箱舟で生まれた。
彼の両親はソテル計画の中枢メンバーであり、エイオースでのニュード研究の責任者であった。
彼らはベネディクトを愛したが、彼になぜ自分たちがここに居るのかを教えることはなかった。
ベネディクトは何も知らぬまま、箱舟の中で幸せに育った。
あの事故が起こったのは、ベネディクトの10歳の誕生日の、ほんの3日前のことだった。
研究棟全域に、赤いランプと耳障りな警告音が鳴り響く。
両親を探し走るベネディクトの目の前で、耐圧隔壁が閉じていく。
壁にすがりつき、少年は泣きながら、両親の名を叫び続ける。
鈍い衝撃音が立て続けに2、3度起こり、続いてエイオース全体が傾いたかのような感覚。
床を転げ落ち、壁に叩き付けられたベネディクトを、避難していた研究員が抱え起こした。
「おじさん! お父さんは、お母さんは?!」
「お二人は中で減圧操作中です! ニュード汚染の恐れのため我々には避難命令が出ています、急いで居住区まで!」
「いやだ、お母さん! …父さぁぁーんっ!」
少年が叫ぶのとほぼ同時、今までで最大の衝撃が施設全体を揺るがした。
エイオース、ニュード研究棟爆発事故。
なぜ事故が起きたのか、当時研究棟に何があったのか。全ての手がかりは研究データと共に、星の屑と消えた。
破壊されたエイオースの一部と、そこに貯蔵されていた大量のニュードが、地表に降り注いだ。
そして……
落着したニュードは、瞬く間に地表を汚染した。
大気圏に突入したニュードは四散し、ジェット気流に乗って極域を除く地球全土に降り注ぎ、そこで増殖を始めた。
そして初めて人類は、GRFが隠していた事実……ニュードの、人体に対する高度な毒性を知るのだった。
ニュードの覇権を奪われることを恐れたGRFは、ニュードの回収作業に乗り出すことを宣言。
しかし、GRFに対する世界的な不信感はやがて抗議活動を経て、反GRF組織EUSTへと発展。
各方面からの、様々な思惑を孕んだ援助により、EUSTとGRFの対立は泥沼化する。
やがてどちらからともなく、武力衝突が勃発。
作業用であった二足歩行ロボットは、汎用兵器ブラストランナーへと変貌していく。
地上は、ニュードに蝕まれた大地をブラストランナーに乗って駆ける、傭兵達の戦場となっていった。
そうして、それから1年……